空を割らんとするような激しさで稲妻が落ちて、雨が降り出したのはつい先刻の事。
「バッツ、遅いな…大丈夫かあいつ」
テントの入り口から頭だけ出して外を窺ったジタンの心配そうな声音に、スコールが顔を上げた。
「まさかさっきのカミナリに当たったなんてことないだろうな…って、バッツなだけに笑えないか」
はは、と乾いた笑いを上げてジタンが振り返る。テントの隙間から見えるのは激しい雨模様。
バッツが食料調達に出ている間に降り出した雨。
テントを張っていたジタンと、薪を集めていたスコールは大して降られもしなかったが、森の奥まで行ったであろうバッツはまだ戻ってきていない。
別行動を取ってから、もう随分経つ。根が心配性のジタンが落ち着かないのも無理はなかった。
『…タン、……スコール…』
「バッツ…?!」
くぐもったような、逆に何かに反響しているような。おかしな響きで聞こえてきたバッツの声にジタンははっと顔を上げた。
『ジタン……えるか、……スコール…!』
「あいつの荷物からか」
慌てて荷物を探ったスコールが見つけ出したのは、ぼんやり光る小さな花。
『ジタン!聞こえるかー?』
「バッツ?!」
『あ、聞こえてた!よかったー、スコールも一緒か?』
大きく開いた花弁を震わせてバッツの声を上げる花に目を丸くして、ジタンはなんだよこの花!と叫んだ。
『セシルがたまたま何本か持っててさ、貸してもらったんだ。二人に渡すの忘れてて………あれ、もしかして知らない?ひそひそう』
「ヒソヒソウ?」
『対になってる花同士で声を送れる植物だよ。おれやセシルの世界にはあるんだけど…って、まあそれはいいや。とにかく気付いてくれてよかった。』
「おまえ今どこにいるんだよ、大丈夫か?」
『ああ、平気。ただこの雨だろ?森も暗くなっててすぐには戻れそうにないんだ。しばらく雨宿りしてから帰るよ』
「そっか……分かった。ま、とりあえず無事で良かったよ」
『ごめんなー、もしかしたら今夜メシ抜きになっちゃうかもしれないけど』
「そんな事は良い。…気を付けろよ」
『ありがとう、スコール。ジタンも心配かけてごめんな』
じゃあ、と言い残してバッツの言葉が途切れる。ひとりでに花弁を閉じた花からほのかな光が消えたのを見て、ジタンはほっと息をついた。
「どうやらカミナリには打たれてないみたいだな」
へへ、と笑ったジタンの顔を、スコールは呆れ顔で見返す。
「本当に過保護だな」
「なんだよ…スコールだって似たようなもんだろ。あからさまにさっきより眉間の皺減ってるくせに」
スコールは眉間に突きつけられた指を押し返してテントの入り口から外を覗いてみる。
雨はまだやみそうにない。
「風邪でも引かなきゃいいけど」
あいつバカだけど引くときゃ引くだろ、とジタンが背後でぼやいた。
全く同じ事を心配していたと気付いたスコールは、確かに似たようなものだとジタンに背を向けたまま一人苦笑した。
ひそひそうで会話する589を書きたかっただけともいう。
ちなみにひそひそうのデザインは完全に想像。昔からの個人的なイメージから。
589の絶妙なトライアングル(※三角関係という意味ではなく)が好きでたまらない。
5不在の89は5に過保護気味。
59だけだと悪乗りが過ぎる。
58しかいないと5が意外に大人しい。
うちの589はなんとなくそんな感じで。
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