スコリノ前提スコ←バツ連作その2。
例によって恋愛的には完全に一方通行な設定ですので苦手な方はご注意を。
それからリノアは連作通して実際には登場しません。名前だけです。なのでスコリノ方面でのご期待にも添えそうにないシリーズですのでそちらの方もご注意下さい。
今回はジタンもいます。
いますが、メインではないために若干刺身のツマ的扱いになってしまった気がしないでもない。
ごめんねジタン。でも愛してるよ!本当なんだ!
脇道に逸れましたが大丈夫な方は続きからどうぞ~。
何だかぐるぐるしてしまっている17歳と、構わずにいられない20歳。
「…ったく、らしくないぜスコール。お前がヘマするなんてさ」
「………悪かった」
呆れたようにため息をついたジタンに、スコールは素直に謝る。しおらしいその姿にもまた、らしくないとジタンは重ねた。
「スコールはここんとこちょっと不安定だよな」
大きな切り傷が付いた腕に包帯を巻きながら、バッツが口を開いた。
「なんか、焦ってるように見える」
きっちり端を結んでから顔を上げると、スコールが目を瞠ってこちらを見ていた。
意外だと言わんばかりのその表情に思わず笑いをこぼしながら、バッツはスコールの頭をなでた。
「バッツさんにはなんでもお見通しってことだよ。――――悩みがあるならお兄さんに言ってごらん?」
わざと冗談めかして言ってみたが、スコールは俯いてしまった。
「…スコール?」
ジタンが気遣わしげにスコールの顔を覗き込んで、バッツの方を振り返った。
バッツがスコールをただじっと見つめているのを見て、ジタンもそれに倣って黙って座る。
「…………お前達は、」
どれくらい覚えているんだ。
拳を握って俯いたまま、スコールは呟いた。
「お前達が時々思い出すように、俺はここで何かを思い出した事が無い。俺が覚えているのは自分がSeeDであること、アルティミシアが敵ということ、あとは…武器の扱い方ぐらいだ。」
押し隠していた不安を口に出したスコールの声は、微かに震えていた。
バッツやジタンがふとした瞬間に思い出しては話す、元の世界の記憶。二人とてほとんどの事は忘れたままだから、思い出すのは元の世界の手がかりにもならない本当にささいな事ばかりだった。
例えば、酒場のピアノの上に置かれたメトロノームの音。
例えば、芝居の殺陣の練習で指を切ってしまった事。
それらは本当に小さな日常の断片でしかなかったが、しかしだからこそ素直に信じられる思い出だった。
スコールにはそれが無かった。
本当は。
もしかしたら自分には、「元の世界」なんて無いのかもしれない。
その言葉だけはどうしても口に出来ず、飲み込んだ。
それきり黙り込んだスコールを見て、かける言葉を探すジタンの隣で、バッツはスコールの手を取ってかたく握り締められた拳を両手で包み込んだ。
ひくりと跳ねた彼の指先にかまわず、バッツは口を開く。
「―――大丈夫。思い出せるよ」
「……あんたに何が分かる」
安易ななぐさめなど要らないと、かけられた言葉への苛立ちを隠さない視線を受けて、けれどバッツはその目に笑い返した。
「分からないけど、知ってるからさ。スコールが覚えてるのはそれだけじゃないって」
本当は、こういう事は他人が教えるべきではないと分かっていたけれど、バッツにはどうしても放っておけなかった。
途方にくれて、まるで迷子の小さいこどもみたいな目をした今のスコールを、このままには出来なかった。
「――――リノア」
「りのあ?」
「そう、リノア」
首をかしげるジタンの声に頷いて、バッツはスコールに再度向き合う。リノア、と戸惑った顔で呟くスコールの目を真っ直ぐ見つめる。
「ちょっと前な、スコールが寝てる時にそう言ってたんだよ。」
「俺が…?」
「スコールは覚えてないって言うけど、ちゃんと覚えてるんだと思う。だからきっと大丈夫だ」
思い出せるよ。
もう一度笑いかけて握っていた手を放した。
スコールは目を閉じて俯いていた。
リノア、と何度か呟いた彼はふと押し黙り、長い長い沈黙の後ゆっくりと顔を上げた。
「スコール?」
「…………少し、思い出した…」
「“リノア”のことか?」
問うジタンに多分なとスコールは小さく頷いた。
「そっか………よかったな」
スコールの顔から先程までの張り詰めた雰囲気が抜け落ちているのを見て、ジタンはほっと胸をなでおろす。
「それで、そのリノアってどんなやつだったんだ」
何気なく訊ねたそれに途端に耳の端を赤くしたスコールを見て、ジタンは一瞬きょとんと目を見開いたが、あっという間にその表情をつい先程までの心配事など無かったような意地の悪い笑顔に変える。
「あー…………そういうこと」
「何が言いたい」
「いや、別に?ただスコールにも夢に出る程愛してる子がいるんだなーって思っただけさ」
「……っ、ジタンっ…!」
「なんだよ、やっぱ図星なんじゃん!」
振り上げられた拳を易々と避けて立ち上がったジタンは、にやりと笑って走り出す。バッツが、一拍遅れでジタンを追って走っていったスコールにケガしてんだから無理すんなよ!と声をかけるとその背が止まり、振り返った。
「…バッツ」
「うん?」
「心配かけて、すまなかった」
「気にすんなって。ほら、早く行かないとジタン逃げ切っちゃうぞ」
「………ありがとう」
「うん、いいよ」
スコールが元気になってくれて良かった。
そう言って笑いかけると、スコールがほんの一瞬目を細めた。
再び走り出した背中がなんだかまぶしくて、バッツは目を伏せる。
「スコールが笑ってるとこ、初めて見たな」
目を細めて、口の端をほんの少し上げて。ともすれば見過ごしかねないような小さな笑顔だったけれど。
「良かった」
顔を上げて見えた背中は、遠くなっていてもやっぱり少しまぶしかった。
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