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きみはともだち【レオン×バッツ♀→←スコール現パロ設定】
「最近きれいになったね」
彼氏でも出来た?
柔らかな笑みを浮かべ首を傾げるセシルに、他意はなかった。
「なんだよいきなり」
だから笑い返すバッツの表情が普段よりほんの少しだけ硬かった事にも、彼は多分気付かなかったのだろう。
「おれはなんにも変わってないよ」
「そうかなあ。なんだかちょっと女の子らしくなったっていうか、色っぽくなった感じがするんだけど…………ねえ?クラウド」
不意に同意を求められて一瞬息が詰まる。
「……どうだろうな。毎日顔を合わせてるし」
「クラウドって、彼女が髪切っても気付かないタイプでしょ。それじゃもてないよ……顔は良いのにね」
「うわー、はっきり言うなあセシル」
「……興味な」
「またそれだ!もう……僕達大学生なんだよ?勿体無いって。恋人欲しいって本当に思わないの?」
別に『恋人』が欲しいわけじゃない。だから誰から声をかけられても「興味ない」の一点張りで断ってきた。
「恋って良いのになあ」
「バッツ、行くぞ」
「へ?」
端整な顔にふにゃりとなんともしまりの無い笑顔を浮かべ始めたセシルを見て、俺はバッツの腕を取って立ち上がる。
「これ以上ここにいたらまたセシルの惚気話に付き合わされるぞ。良いのか?」
「うわ、それはやだ」
「じゃあ来い」
「うん……っと、じゃあなセシル、おれ達もう帰るから!」
「ん?ああごめんそうなんだ~?じゃあまた明日~」
語尾をゆるく伸ばすのは、セシルが兄か恋人のことを考えて自分の世界に入っている時の特徴だ。幸せそうな気配に満ちて、ぽやぽやと周囲に花が飛んでいるようにさえ見える。普段はむしろ聞き上手で自分の意見を押し付けたりしない彼だが、兄と恋人がからむと途端に現実がおろそかになってしまうらしい。
この状態のセシルに捕まると、まるで夢見心地といった表情の彼から延々惚気話を聴かされる羽目になるのだ。(今まで何度バッツと二人でそれにつき合わされたか、思い出しただけで砂を吐きそうなくらいだ。)
「でも、あれもまたセシルの良いところだよな」
セシルと別れて駐輪場へ向かう道すがら、バッツがくすくす笑う。
「そうか……?どう考えても短所だと思うんだが」
「そんなことないって。 セシルはいつもしっかりしてるし真面目過ぎるから、ああいうとこがある位でちょうど良いんじゃないかな」
「ああ、それは確かに」
他愛も無いやりとり。
それが当たり前に交わされる事を俺がどれだけ喜んでいるか、彼女は知りもしないだろう。
気の置けない親友。
それが高校時代から続く、バッツの中での俺の立ち位置だった。
「ついでだから乗ってくか?」
送るぞ、とキーを見せると、バッツは目を輝かせた。
「フェンリル?乗りたい!」
かっこいいよなーと声を弾ませながら俺を追い越して足早に歩いてゆく彼女。その足取りも先程よりずっと軽い。そんなにはしゃがなくても駐輪場はもう目の前なのに。
子供っぽい仕草にゆるみそうになった口元をあわてて引き締め、彼女に追いつくために足を速めた。
「バッツ、そんなに急が―――」
呼びかける俺の声を遮るように、聞きなれたメロディが響いた。
それはバッツの携帯の着信音。
「もしもし、」
彼女の家族からの着信を告げる、専用のメロディだった。
「―――レオン、」
(ああ、兄貴からか……)
その名を呟く瞬間の彼女の表情が曇ってみえるようになったのは、今に始まった事じゃない。
「うん、…うん。――――分かった……待ってる」
「あ、……ごめんクラウド、今日駄目になった」
「バイトか?」
分かっていて、そ知らぬ顔で尋ねる。
「ううん。……その、レオンが、今日はもう仕事終わったから迎えに来るって」
「そうか」
「……ごめんな。せっかく乗せてくれるって言ったのに……」
申し訳なさそうに目を伏せ俯く彼女を見て、思わず手が伸びた.。
「クラウ、ド?」
くしゃりと柔らかな茶色の髪を撫でる。
これぐらいなら、友達の範囲内だと思ってくれるだろう。なんて。
そんな事を思って彼女を抱き締められない自分を情けなくは思う。
けれど。
「気にするな。―――またいつでも乗せてやるから」
「うん、ありがとう……クラウド」
上げられた顔にいつもと同じ笑みが戻っている事を確認して、手を離す。
「また明日な!」
「ああ、気を付けて帰れよ」
手を振る彼女の笑顔に自分も小さく手を振り返して、その後姿が正面玄関へ向かうのを見送った。
親友の立ち位置はとても居心地が良くて。
いつまで経っても踏み出せない自分自身を、本当に情けなくは思う。
(けれど、)
正面玄関を遠目に見遣ると、ちょうど彼女の兄が着いたようだった。
ごく自然な仕草で彼女の肩を引き寄せる腕から目を逸らしてバイクに跨る。
(俺の事でまで、あんな顔をさせたくは無いんだ)
17の夏。
あの頃から曇るようになってしまったバッツの笑顔。
何が彼女を変えたのかはっきり訊いたことはない。
訊かずとも、分かってしまった。
(気付いたのは、いつだった)
兄を、弟を見る彼女のまなざしが時に俯く事に。
彼女の兄弟の視線が、俺のそれと同じ熱を持っている事に。
気付いたところでどうにも出来なかった。
ただいつもと変わらず、付かず離れずの友達の距離のままで彼女の横を歩くだけ。
(俺の気持ちまで押し付けたら、きっともっと辛い思いをさせるから)
それは半分は言い訳だったが、半分は心からの気持ちだった。
気の置けない親友。
その立ち位置は、彼女にとってもきっと心休まる場所だと思ったから。
ならばこのまま変わらぬ日常を守っていたかった。自分と、彼女のために。
いつか彼女がどうしようもなく傷付いた時に、せめて自分が逃げ場になれれば良いと思った。
何も出来ないけれど。
踏み出す勇気もない臆病者で、それにさえ言い訳する狡い男だけれど。
女々しいと笑ってくれたって良い。
ただ、
いつでも君が逃げ込めるように、俺の腕の中はずっと空けておくから。
***
セシルとは大学に入ってから出会ったのですが、クラウドとバッツは高校時代からの親友です。
で、クラウドは昔からずっとバッツの事が好きだったというお話。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・妄想すみませんでした・・・!
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